事業目的
本事業は、成長著しいASEAN諸国に、日本が強みを持つ映画とアニメーション分野の専門人材を派遣し、現地の若者を対象とした実践的ワークショップを行うことで、人材育成に協力するとともに、日本の文化発信力の強化と国際文化交流を推進することを目的とする。
昨今、社会全体が急速にテクノロジーへの依存を強めている中、人々の心の豊かさを育む土壌となるのは文化であり、文化を耕すことができるのは人である。インターネットを通じて手軽に文化的な「知識」の交換は可能になったが、やはり人と人が顔を合わせて同じ場所の空気を感じ、より深いレベルで濃密な時間を共に過ごす「体験」とは代替不可能である。我々は今回の事業を実施するにあたり、現地の若者たちの人生における一つの礎石となるような、深いレベルの文化体験を提供することを目指した。
具体的に我々が企画したのは、「共につくる体験を通じた文化理解」のプログラムである。日本のポップカルチャーはASEAN諸国でも広く受容されているが、それらがどのような人々によってどのようにつくり出されているかについて、「知識」ではなく「体験」として理解している人は少ない。また「共につくる体験」は、お互いを尊重し、やりたいことに耳を傾け、それをどのように実現していけばよいかを教え・教わる関係を築く。一人では生み出せなかったものが、他者との協同作業によって生まれるプロセスを体験することは、参加者に様々な気づきを与えてくれるはずである。
こうした考えを背景として、我々は、映画とアニメーションの両分野において、実際の制作体験に焦点化した文化交流のプログラムを実施した。具体的には、それぞれの分野において日本を代表する高い技術と経験を持った一流の制作者達を、マレーシアとタイの2カ国に派遣し、実践的な内容のワークショップを行った。それらを通じて各国の当該分野における人材育成に貢献するとともに、現地の若者達に、日本の映像文化を支える制作者達の高い技術レベルとその背後にある思想の深さを理解してもらうことを目指した。
事業構成
本事業の全体構成を以下に示す。
映画分野 | アニメーション分野 | |
---|---|---|
マレーシア | デジタルシネマ ワークショップ |
|
タイ | アニメーション ブートキャンプ 2016 ASEAN |
昨年度、我々はマレーシアとシンガポール、タイの3カ国で事業を実施したが、本年度はマレーシアとタイの2カ国に絞り込むことで、各ワークショップの内容を更に充実させる方針をとった。
昨今、政府主導による映像産業振興が活発なマレーシアでは、シンガポールに隣接したジョホール地区にあるPinewood Iskandar Malaysia Studios(PIMS)において、『デジタルシネマワークショップ』を行った。昨年度の映画分野のワークショップは、撮影照明のみに特化したもので、期間的にも2日間と短いものであった。それに対し、本年度は実施期間を6日間に延ばし、編集や録音等のポストプロダクションまで含め、最終的にグループごとに短編作品として完成させるという、高度かつ総合的な内容のワークショップに発展させた。映画分野のワークショップの指導方法やカリキュラムは、東京藝術大学大学院映像研究科が平成25年度から平成27年度にかけて取り組んできた「デジタルシネマの制作プロセスの標準化によるアジア映像教育の拠点化」というプロジェクト で構築した方法論に基づいて実施した。
一方、タイでは、ディレクターの竹内孝次と布山タルトが平成24年から国内で実施してきた『アニメーションブートキャンプ』というワークショップを実施した。日本のアニメーション業界で活躍するトップクラスのアニメーター達を講師として、アニメーションで表現することの基本を教えるプログラムである。会場は国立のSilpakorn UniversityのSanam Chandra Palace Campus。こちらも期間を昨年度の2日間から3日間に延ばし、より充実したプログラムとして発展させた。