第5回 「アニメ!アニメ!」編集長による現代日本のアニメ俯瞰図

講師:数土直志(株式会社イード「アニメ!アニメ!」 編集長)

2013年3月2日(土)16:00〜17:30(15:30開場予定)

終了いたしました。講座のアーカイブはこちら

アニメーションの最新のニュースや情報を届けるインターネットサイト「アニメ!アニメ!」。このサイトは日本のアニメーション界において大変重要な位置をしめています。最新のニュースから作品レビュー、インタビュー、特集など、そのボリュームと記事の幅の広さはまさにアニメの総合誌。3年前からはアニメに関するビジネス情報を掲載した「アニメ!アニメ!ビズ」もオープンしました。業界の発展や研究の深化と、質の高いジャーナルの関係は非常に深いものがあります。「アニメ!アニメ!」編集長が、サイトの成り立ちとビジョン、そして俯瞰的立場からの日本のアニメーションの現状や、将来に向けて注目すべきトピックスを語ります。


数土直志(すどう ただし)

株式会社イード「アニメ!アニメ!」編集長、「アニメ!アニメ!ビズ」編集長。 メキシコ生まれ。大手証券会社を経て、2004年に株式会社アニメアニメジャパン設立。2012年に運営サイトを株式会社イードに譲渡。国内外の日本アニメ情報及びアニメビジネスに関する取材・報道・執筆、国内のアニメーションビジネスの調査・研究などを行なう。「デジタルコンテンツ白書」主要コンテンツの分野別動向アニメーションパート執筆など。

講座アーカイブ

岡本:今年度の講座の最終回として、今日はアニメーションの総合ウェブサイト「アニメ!アニメ!」の編集長、数土直志さんにお越しいただきました。「アニメ!アニメ!」は最新のニュースやレビュー、インタビューなど、アニメーションに関する情報が総合的に網羅されているウェブサイトです。また、そこから派生したサイトとして、アニメのビジネス情報に特化した「アニメ!アニメ!ビズ」があります。私は常々健全な文化には健全なジャーナリズムが必要だと考えているのですが、「アニメ!アニメ!」がなかったら日本のアニメーション界はどうなっていただろうと思うくらい重要な役割を担っていると思っています。
 今日は前半で「アニメ!アニメ!」についてお話しいただき、後半は今年度の最後の回ということで、現在の日本と海外のアニメを俯瞰できるよう、数土さんのほうから注目すべきトピックスをそれぞれ5つずつ挙げていただきます。ではまず、数土さんから「アニメ!アニメ!」についてご説明いただければと思います。

◆多様性を重視したアニメ情報サイト

数土:「アニメ!アニメ!」はサイト自体でも読まれていますがmixiさんなど複数のポータルサイトにニュースを提供しており、実はそこでウチのニュースを見ている方も多いです。朝日新聞さんの英語版やTokyo Otaku Modeさんなど、英語サイトにも提供しています。それらを含めると実際読まれているPVはかなり多くなります。PV数は、広告収入に直結するので重要です。
 コンテンツについてはアニメと謳ってはいるものの、マンガや特撮などのアニメの周辺ジャンル、それからキッズアニメや短編アニメーションなども幅広く扱っています。インタビューもさまざまな人にしていますが、特徴としては声優やアーティストのものが少ないという点でしょうか。それは単純に僕が詳しくないというのもありますし、他がやっているからいいじゃないかという部分もあります。
 それからもうひとつの「アニメ!アニメ!ビズ」ですが、こちらはそれほど規模が大きくありません。読者もほぼ業界の方に限られます。決算情報なども実はそんなに読まれているわけではないのですが、逆に読まれるかたは、非常に専門性の高いかただと思います。

岡本:サイトを始められた経緯は?

数土:意外に歴史は古くて、スタートは2004年になります。なんとなく立ち上がってしまったというのが正直なところですが、じゃあ最初からビジネスする気はなかったのかと言うとそんなことはなくて、当時はアニメの総合情報サイトがありませんでしたから、やる気は満々でした。それで記事をどうやって埋めていくのか考えたときに、原稿料も払えないし自分で書くしかないだろうと。そもそも自分でどのくらい記事が書けるのか疑問に思い、ブログで試してみようと考えたんですね。それは本格的にサイトを始めるまでの仮のものという位置づけだったのですが、思いのほかアクセス数が伸びてしまったんです。それでせっかく来てくれた読者に申し訳ないと思い、ブログをそのまま「アニメ!アニメ!」に変えた。それが最初の経緯です。
 それが2004年です。その後、05年に独自のドメインを取得して、09年には「アニメ!アニメ!ビズ」を分離独立させました。そして12年の1月1日に、「アニメ!アニメ!」と「アニメ!アニメ!ビズ」をイードさんという会社に売却しています。売却の理由はいろいろあるのですが、現在のウェブサイトのビジネスを考えると、小さなサイトは成り立たなくなるのではないか、このままいくと経営は難しくなるのではないかと判断したからです。
 なぜイードなのかと言うと、社長さんと知り合いだったんですね。また、メディアビジネスとリサーチを行なうベンチャー企業であるイードさんならノウハウもあるだろうし、サイトをより大きく発展させてくれるだろうと考えました。そこで社長にお話ししたところ、欲しいと言ってくれました。最初は「アニメ!アニメ!」だけ売るつもりだったのですが、僕にも来て欲しいと言われました。それは悩みました。最初「アニメ!アニメ!」を立ち上げたときに、サイトの意義として、アニメファン以外のもっと広いユーザーを前提とした総合サイトが欲しいと思っていたんです。それで自分でつくったのですが、別にビジネスとしては負けてもいいと思っていたんです。ビジネスで負けるということは、必然的にそれよりいいサイトがあることを意味しているわけですから。それは別の意味で目標は達成されます。ただ、現実にはどちらも目標に達成していないと思いました。
 「アニメ!アニメ!」も来年(2014年)で10年になり、自律して動くようになってきたので、個人的には僕のやるべきことも終わりつつあるのかなと思っています。「アニメ!アニメ!ビズ」についてはもう少しやりかたを考えなければいけないと考えています。「あまりにも僕の色が出すぎてしまって、他の人の手に負えないところがあると思います。

岡本:数土さんについては、何もかも自分でやられるスーパーマンのような方という印象を持つ一方、今回事前に送っていただいた資料に「メキシコ生まれ」とあったり、知れば知るほど謎多き人という印象もあります(笑)。ご自身のことについてお話いただけますか。

数土:父が商社に勤めていた関係でメキシコで生まれました。といっても3才くらいで日本に戻ってきたので、スペイン語が喋れるわけでもないし、それほど思い入れはない。むしろ思い入れがあるのはイギリスで、高校生のときに両親が渡英したんです。僕は学校があるので日本に残ったのですが、毎年夏になるとイギリスに行きました。自分のなかでは当時、世界はグローバル化しているのだし、イギリスに行っても東京とさほど変わらないだろうという思いがありました。けれども、行ったらやはり全然違うわけですね。それですごく感動したんです。父が商社勤めということもありますし、母とか親戚は外国好きが多いんですよ。僕もそれを受け継いでいて、海外に対する憧れは人一倍強かったように思います。
 それで大学を出て、証券会社に入社します。僕が入社した頃はバブルの絶頂期でした。言い換えると、その後の10年間は証券会社の業績がひたすら下がり続けていく時期だったんですね。そのときにアニメーションの業界がすごく輝いて見えたんです。日本の金融は世界と戦えないけれど、アニメなら戦えるじゃないかと。後から振り返ってみると、当時のアニメ業界も必ずしも好調だったわけではないのですが。
 それで証券会社を辞めた後、日本版のMBA(経営学修士)である国内大学院のベンチャー企業コースに入ります。国内大学のMBAは少し変わったところで、とにかく勉強が大好きとか変わった人たちの集まりで刺激を受けましたね。「アニメ!アニメ!」についてよく海外とビジネスの情報が厚いサイトだという評価をいただくのですが、それは僕のこうした経歴が反映しているのかもしれません。

岡本:小さい頃はやはりアニメオタクだったのですか。

数土:それも微妙なところで、中学生くらいまではアニメファンだったのですが、高校から離れてしまって、大学時代もそんなに観ていません。それが20代後半になって、たまたまWOWOWで『カウボーイビバップ』を観てハマってしまった。今でも「アニメのサイトをやっているのにこんな有名作品も観ていないのか」といろいろな方からお叱りを受けます(笑)。そういう意味では自分の好きな作品しか観ない、ごく普通のアニメファンと言えるかもしれません。

岡本:取材対象を愛しすぎるとジャーナリストとして偏った報道をしてしまう部分もあるかもしれませんね。「アニメ!アニメ!」の一歩引いたスタンスというのは、数土さんのそういう面が出ている気がします。

数土:そうですね。それともうひとつ、これは「アニメ!アニメ!」のコンセプトにも関わることですが、多様性を確保したいという思いはあります。僕は証券会社にいるときに何回も部署が変わっているんです。コミュニケーションが苦手だったり、正直言って問題児だったと思います(笑)。子供の頃から、人と同じことができず、同調圧力に対する強い警戒心がありました。それで自分と異なる他人が隣にいないとどこか居心地が悪いという感じになりました。それは「アニメ!アニメ!」の誌面にも反映されていて、短編アニメーションが好きなのかと言われれば、好きな作品もあるけれどそうでないものも多い。あるいはキッズアニメを観ているのかと言われれば、観ていないもののほうが圧倒的に多い。それは自分とは異なる価値観によってつくられた作品が隣にあるという状況が心地いいんですね。そういう意味では、記事を選ぶときには割とバランスを考えています。

岡本:短編アニメーションをつくっている側の人間からしますと、「アニメ!アニメ!」のように両方をカバーしてくれるメディアというのはとてもありがたいです。

数土:本来は短編アニメーションの情報ももっと増やすべきだと思うのですが、いかんせん人手も自分の知識も足らないという状況で、その点については申し訳なく思っています。現在は一日のニュースの数がだいたい10~15個くらいなんですね。宣伝会社や配給会社からプレスリリースが山のように来ますし、リリース以外も当然素材になりますから、そのなかから記事になるのはかなりの倍率になります。

岡本:「アニメ!アニメ!」は何人くらいで運営されているんですか。

数土:編集と言えるのは会社のなかで僕ほぼ一人で、あとは営業担当の者がもう一人いるだけです。記事は外部のライターさんにも願いして、あとは連載やインタビューに関しては、それぞれ専門のライターの方にお願いしています。やはり経験のある方はいい原稿になります。

岡本:編集が一人というのはすごいですね。
それではここからは数土さんが注目する2012年度(一部2013年度)の国内・海外の5大トピックスを挙げていただければと思います。まずは国内のほうからお願いします。


◆2012年度国内5大トピックス

(1)劇場アニメが活況、ただし海外アニメーション苦戦

数土:大ヒットしたタイトルを挙げますと、『ONE PIECE FILM Z』の興行収入が67億円を超えてきています。67億円というとジブリクラスです。それから『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』も50億円を超えています。この2作に共通しているのは広げ方のうまさですね。

岡本:広げ方と言いますと?

数土:一つにはタイアップの多さです。『ONE PIECE』はタイアップでどんどん広がっていってます。『エヴァンゲリオン』も、製作や配給元がそんなにプレスリリースを出すわけではない。にもかかわらず、山のように『エヴァンゲリオン』のニュースが出ている。それはタイアップした先が告知を出しているからなんです。世間を巻き込むことでどんどん広がっていくということでは、『ONE PIECE』と『エヴァンゲリオン』は非常に似ていますね。
 それから『おおかみこどもの雨と雪』で40億円超えです。ジブリ以外のオリジナル作品でそこまでいくのは、本当にすごいことです。作品自体に力があったことは言うまでもありません。2012年ですと以上の3本を筆頭に、10億円を超えた映画が国内のタイトルだけでも10本もあるというすごい事態になっているんですね。アニメ業界の方は皆さん口を揃えて景気が悪いと言うのですが、僕は少なくともここ1~2年は悪くないと思っています。
 一方、海外アニメーションに関しては苦戦していますね。『メリダとおそろしの森』があそこまで苦戦するとは予想外でした。おそらく日本人がディズニーやピクサーに期待しているのはもっとハッピーな物語だと思うのですが、『メリダ』の場合は人間の内面を追いすぎていて、すごくいい話なのですが、ファミリー向けの映画としては重すぎたのかなという印象です。

(2)キャラクタービジネスが盛況(『ONE PIECE』『ガンダム』『エヴァンゲリオン』)

数土:アニメ業界の好調の背景にはキャラクタービジネスの拡大があります。例えば『ONE PIECE』が大ヒットしていますが、東映アニメーションの業績を見ると、製作よりもライセンスの売り上げと利益率が高くなっている。『ガンダム』にしても同じです。大きなキャラクターを持っている会社は、軒並み業績がよくなっています。それはソーシャルゲームの影響もかなり大きいと思われます。それが今後も継続していくものなのか一過性のものなのかわからないところがありますが、『ONE PIECE』や『ガンダム』は時代の流れにうまく乗っていると言っていいでしょう。

(3)国産CGアニメ 劇場で多数公開

(4)キッズアニメーション 劇場、テレビで活況

数土:見落とされがちなのですが、2012年は国産CGアニメやキッズアニメの作品が多数劇場公開され、活況を呈していました。国産CGアニメというと今までは苦戦していましたが、一番ヒットした『friends もののけ島のナキ』は14~15億円まで行っています。それから、『スターシップ・トゥルーパーズ インベイジョン』はアメリカのソニーの資金で製作されているのですが、つくっているのは日本、監督は今度『キャプテンハーロック』(『宇宙海賊キャプテンハーロック-SPACE PIRATE CAPTAIN HARLOCK-』)をやる荒牧伸志監督が手がけています。『.hack』サイバーコネクトツーというゲーム制作会社が劇場アニメをつくっています。ゲーム関連では『バイオハザード ダムネーション』もありました。他にも『放課後ミッドナイターズ』があったり、大きなところでは『サイボーグ009』のリメイク『009 RE:CYBORG』があったり、フルCGの国産アニメの公開ラッシュでした。
 また、キッズアニメーションがテレビの5分枠のようなものも含め増えていて、劇場作品もたくさんつくられているんですね。大ヒットした『アンパンマン』(『それいけ!アンパンマン よみがえれ バナナ島』)をはじめ、『はなかっぱ』『映画はなかっぱ 花咲け!パッカ~ん 蝶の国の大冒険』)や、『しまじろう』(『劇場版しまじろうのわお!しまじろうとフフのだいぼうけん』)など、今やキッズアニメは大きな市場を形成しています。

(5)アニメーション分野でクラウドファンデイングに挑戦

数土:クラウドファンデイングとは、作品を製作するにあたって企業ではなく一般のお客さんからの出資を募るというやり方です。2年くらい前からアメリカでブームになっていて、数千万単位のプロジェクトも動いている。これは熱烈なファンがいることを前提にしたシステムですので、コンテンツ産業と非常に相性がいいんですね。それが去年くらいから日本でも行なわれるようになってきていて、今後さらに増えていけばいいなと期待しています。
 実際に行なわれた事例を紹介しますと、プロダクションI.GさんがアメリカのKickstarterというクラウドファンディングのシステムを使った『キックハート』という作品があります。監督は湯浅政明さんで、文化庁メディア芸術祭で大賞を二度受賞されるなど華々しいキャリアをお持ちですが、10分の短編アニメーションをつくるので先にお金を払ってくださいと言って、出資者を募ったんです。それで目標金額が15万ドルという非常に高いハードルだったのですが、結局20万ドル集まった。出資者はほとんど海外の人です。日本の大物クリエイターがアメリカのクラウドファンディングを使って作品をつくるという話題性もあったと思いますが、お金を出した人が3200人あまりもいたと言いますから、単純にすごいことですよね。
 「アニメ!アニメ!ビズ」に湯浅監督とプロダクションI.Gの石川光久社長のインタビューを掲載したのですが、そのなかで印象的だったのは、今思えばリスキーな企画だったよねと石川社長は言ってます。成立しなかったらプロジェクト自体に傷が付くわけじゃないですか。それが成功して、成功したことによってまた話題になっているわけです。

岡本:インタビューのなかで湯浅監督も石川さんも、「つくりたいものをつくる」というのが原点でそのためのクラウドファンディングだと口を揃えておっしゃっていたのが印象的でした。

数土:クラウドファンディングで成功するには「つくりたい」という熱意がなければいけないのは言うまでもありませんが、その熱意を広く世間に伝えるプレゼンテーションの技術も問われます。短編アニメーションというのはそれほどバジェットは大きくありませんが、個人で簡単に製作できるほど手軽でもない。そういう意味では、短編アニメーションというのはクラウドファンディングと非常に相性がいいのではという気がします。

岡本:短編アニメーションの教育に関わる者として、非常に勇気づけられるお話でした。では次に海外の5大トピックをお願いします。

◆2012年度海外5大トピックス

(1)日本の海外アニメ・マンガイベント拡大

数土:今、海外では日本のアニメのDVDやマンガの売り上げが急降下しているのですが、一方で日本のアニメ、マンガ、Jポップなどをテーマにしたイベントは大盛況という不思議な現象が起こっています。パリの「Japan Expo」が過去最高の21万人を集めたり、ロサンゼルスの「Anime Expo」が延べ人数でやはり過去最高の11万人を記録したり、アジアでもシンガポールの「Anime Festival Asia」が非常に好調で、今年からインドネシアとマレーシアにフランチャイズを始めています。
 アニメのDVDやマンガの売り上げが落ちている理由として、海賊版が普及しているせいだと言う人もいるのですが、僕はちょっと違うと思っています。またヨーロッパやアメリカの場合、子供はそれほどお金を持っていないので消費行動が制限されているのではという指摘もある。ところが上記のイベントの入場料というのは、日本では考えられないくらい高いんですね。「Anime Expo」だと5000円くらい取る。ではこうした現象はなぜ起こるのか。その原因として、アニメファンやマンガファンの消費の対象がコンテンツからライブのほうに向かっているということが挙げられると思います。できるだけビビッドな体験にお金をつぎ込みたいという考え方が主流になりつつある。それをビジネスとうまく結びつけていくことが今後求められてくると思います。

(2)海外向けアニメの制作増加(『パックマン』『モンスーノ』『Scan2Go』)

数土:今までは日本でつくったものを国内で放映して、その後海外に展開していくという流れだったのですが、日本企業が国内でつくった作品が日本をスルーして海外で展開するという流れが新しく起こっています。『パックマン(Pac-Man and the Ghostly Adventures)』というのは皆さんもよくご存知のゲームのパックマンなのですが、CGアニメーションになって、2013年の秋からアメリカのディズニーXDチャンネルで放映されます。[1]。アニメーション制作はOLMという『ポケモン』をつくっている日本の会社がほぼやっていて、莫大な予算でつくられているのですが、日本での放映の予定は今のところありません。
 『モンスーノ(Monsuno)』は電通さんとアメリカの玩具会社が共同で製作している作品です。こちらは日本でも放映しているのですが(『獣旋バトル モンスーノ』)、ビジネス的にはアメリカでの展開がメインとなっています。作風としては『遊☆戯☆王』『爆TECH!爆丸』などのホビーアニメの流れを汲んでいて、キャラクターは日本調ではあるけれど意図的にバタ臭い部分を出して、暴力シーンを減らしたり一話完結ものにしたり、アメリカで必要とされるアニメのフォーマットが遵守されています。
 『Scan2Go』は日本のディーライツという三菱商事系列のアニメ製作会社とドバイの玩具会社と韓国のアニメ製作会社の共同製作です。まず中東で放映されて、次にヨーロッパで放映されて、評判がいいので今度はアメリカで放映されます。これも日本での放映の予定はありません。日本の企業は新しいビジネスモデルとして、こうしたひねり技が今後求められるのかなという気がします。

(3)インドで『巨人の星』『ハットリくん』

数土:次は最近話題になったので知っている方も多いと思いますが、『巨人の星』がインドで『Suraj - The Rising Star』というタイトルでリメイクされヒットしています。インド人は野球をやらないのでクリケットに変えられていますが(笑)。それから『忍者ハットリくん』もインドでつくられていて、こちらも人気らしいです。『Ninja Hattori』というタイトルで一応インド向けにつくられた新作ということになっていますが、不思議なことにプレスリリースを見る限り、舞台は日本で、しかも「ハットリくん」という名前の忍者が主人公らしい。ただ、これは(2)とも共通するのですが、『Suraj - The Rising Star』も『Ninja Hattori』も、重要なのは日本の企業が海外向けに現地の製作会社と共同でつくっているという点です。またもうひとつ注目すべき点として、インドということが挙げられると思います。これまでは中国が新しいマーケットとして注目されていましたが、いくつかの例外を除いて、これまでは期待していたほどの成果が出なかった。そこで最近では輸入規制が相対的に緩いインドや東南アジアが注目されています。

(4)国内アニメ関連7社が海外アニメ配信で新会社

数土:では、そのように新しいマーケットを開拓するときに日本の企業はどういう戦略を立てているのかというと、アニメ関連会社が共同出資して、日本のアニメをインターネットで日本とほぼ同時に配信すると言ってるんですね。今までもクランチロールのような外資系の企業がそういうことをやっていたのですが、それを日本の企業がやるということが驚きでした。参加しているのはアサツーディ・ケイ(ADK)、電通、東映アニメーション、サンライズトムス・エンタテインメント日本アドシステムズアニプレックスの7社で、国内のアニメ関連のトップ企業をほぼカバーしていると言ってもいい顔ぶれです。配信する作品も『ONE PIECE』、『機動戦士ガンダム』シリーズ、『テニスの王子様』『クレヨンしんちゃん』など、日本の人気アニメタイトルが並びます。アニメ業界というのはもともとお互いに仲がいいところがあるのですが、それでもライバル会社がここまで手を組まなければいけないような状況になっていることに驚きました。

(5)シンガポールに日本コンテンツ番組専門チャンネル

数土:それと似たような話で、電通、日本テレビ放送網、テレビ朝日、東京放送HD、テレビ東京HD、イマジカ・ロボットHD、北海道テレビ放送、小学館集英社プロダクションの8社が共同で、シンガポールに日本のコンテンツ番組を専門で流すケーブルチャンネルを開設しました。シンガポールは手始めで、ゆくゆくはアジア全域に広げていく見込みのようです。これが何を意味しているのかというと、結局、海外の映画やテレビ、最近ではインターネットもそうですが、アメリカのハリウッドメジャーが圧倒的に強いわけですね。それらは何兆円という売り上げを誇る企業によって構成されていて、日本でそれに対抗しようと考えると、単独では勝負にならないわけです。じゃあオールジャパンでいきましょうというのがここ2、3年のトレンドだと思います。

岡本:今日のお話でもありましたが、いかに多様性を確保していくかということが、今後、作品的にもビジネス的にもいっそう求められていくように思います。それを編集方針とする「アニメ!アニメ!」は、われわれつくる側にとって非常に心強い存在です。今日はありがとうございました。


[脚注]
1. 実際には『パックマン(Pac-Man and the Ghostly Adventures)』は、2013年夏から放映が開始されました。