平成29年度ASEAN文化交流・協力事業(アニメーション・映画分野) | » Home

背景とねらい

近年の日本映画は、国際映画祭でのノミネートや授賞作品の本数からすれば世界的に一定の評価がされていると言える。その背景には、黒澤明や溝口健二、小津安二郎といった世界的にも評価の高い監督らが活躍した、映画黄金期のスタジオ撮影時代に培われた映画表現技術を継承しながら、デジタル大国として先進的なデジタル技術を積極的に映像制作に取り入れてきたという経緯がある。そのフィルム制作からデジタル制作への過渡期に、国立大学で初の本格的な映画教育・研究を行う拠点として平成17年に設置されたのが東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻である。同専攻では、過去数年にわたり、現在主流となったデジタルシネマに適した、新しい映画制作に基づく映画教育システムの研究を行ってきた。同研究の成果の一つとして、『デジタルシネマ制作ワークフロー教育マニュアル』を平成27 年度に作成している。 映像研究科はフランス国立高等映画教育機関(La Fémis)や南カリフォルニア大学(USC)、韓国国立映画アカデミー(KAFA)、テヘラン芸術大学など世界有数の映画教育機関と共同ワークショップの実施や国際協定を結ぶなど独自の映画教育のグローバルネットワークを構築しつつある。本事業は、東京藝術大学大学院映像研究科が形成してきたグローバルネットワークだけでなく、国際映画教育連盟(CILECT)に加盟しているASEAN諸国の映画教育機関から参加者を集い、開催されている。 本事業の開催国であるマレーシアは、世界的な映画水準から見るとツァイ・ミンリャンなどの一部の監督の世界的な知名度を除いてまだ映画の知名度は低く、映画の発展途上の段階であると言える。しかし、近年マレーシア政府が主導して行っているジョホールバル地区の大規模な都市計画「イスカンダル計画」の一部としてエンターテイメント業界が参入したことで、その状況が変わりつつある。アジア最大規模を誇るPinewood Iskandar Malaysia Studios(以下PIMS)の建設、国際共同制作における助成金の優遇措置など、マレーシアはアジアの映画分野においてその存在感を大きくしつつあり、今後の動向も注目されている。また、言語的にもマレー語、英語、中国語という幅広い言語が国内で使用されており、世界マーケットの最大の障壁である言語問題の壁が低いことも特徴である。アジア経済大国であるシンガポールとの地理的利便性も無視はできない。経済や文化、人材の交流は活発で、今後のマレーシアの映像文化・映画産業が多くの可能性を持っていることは疑いの余地がない。 既にマレーシアと日本の民間のレベルでの連携は始まっている。日本のポストプロダクション大手のIMAGICAはPIMSに進出し、現地法人Imagica South East Asia(以下ISEA)を設立して数年になる。同社は現地での人材育成にも積極的であり、昨年に引き続き今回の事業も彼らの多大な協力を得て、PIMSでのワークショップ開催を実現できることとなった。 本事業は、大規模な撮影スタジオと最新のポストプロダクション施設が整った最高の環境の中で、撮影照明と編集という両分野の日本の映像技術表現と映画の創造性の更なる可能性を体現することを目的とし、さらにはASEAN諸国の若者達に日本文化への理解を深めてもらう重要な機会である。また、今回の事業が次世代の映画制作ネットワークの足がかりになることを大いに期待している。 日本を代表する撮影監督、美術監督、編集者の指導のもと映画制作に必要な表現技術と思考、そして映画制作に対する情熱を直接体験してもらうワークショップである。

実施体制

日本側スタッフ
講師 柳島克己(撮影監督/東京藝術大学大学院映像研究科 教授)
磯見俊裕(美術監督/東京藝術大学大学院映像研究科 教授)
宮島竜治(編集/東京藝術大学大学院映像研究科 非常勤講師)
講師補佐 森崎真実(撮影助手)
池田啓介(照明助手)
村上雅樹(編集助手)
ディレクター 横山昌吾(東京藝術大学大学院映像研究科 助教)
ディレクター補佐 羽生敏博(フリーランス)
プロジェクトプロデューサー 岡本美津子(東京藝術大学大学院映像研究科 教授)
ワークショップアシスタント 小海 祈(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻撮影領域 学生)
北地那奈(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻美術領域 学生)
Yue Chen(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻美術領域 学生)
Macarena Natali De Oto(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻 研究生)
ワークショップ脚本協力 木舩理紗子(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生)
高徳宥介(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生)
外岡三恵(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生)
渡部雅人(東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生)
大石三知子(東京藝術大学大学院映像研究科 講師)
企画・運営 東京藝術大学大学院映像研究科
全体統括 公益財団法人ユニジャパン
事業主任 前田健成(国際支援グループ グループマネージャー)
事業担当 中﨑淸美(国際支援グループ)
マレーシア側スタッフ
コーディネーター 日下健太郎(ISEA)
ポストプロダクション担当・通訳 田中直毅(ISEA)
制作部 Izmil Idris(ISEA)
通訳 Jemy カーワンちえみ(フリーランス)
美術アシスタント Mary Grace Pacat
協力機関 Pinewood Iskandar Malaysia Studios(PIMS)
RED Circle Projects
シンガポール側スタッフ
講師 浦田秀穂(撮影監督/ LASALLE College of the Arts教授)
参加教育機関 University of the Philippines Film Institute(フィリピン)
Wathann Film Institute(ミャンマー)
Jakarta Institute of Arts(インドネシア)
LASALLE College of the Arts(シンガポール)
Ho Chi Minh City University of Theatre and Cinema(ベトナム)
Sunway University(マレーシア)

講師プロフィール

  • 柳島克己 (撮影監督/東京藝術大学大学院映像研究科 教授)

  • 磯見俊裕 (美術監督/東京藝術大学大学院映像研究科 教授)

  • 宮島竜治 (編集/東京藝術大学大学院映像研究科 非常勤講師)

  • 浦田秀穂 (撮影監督/LASALLE College of the Arts 教授)

実施概要

《事業名》

『デジタルシネマ撮影照明・編集ワークショップinマレーシア』

《日程》

平成29年11月17日(金)~21日(火)

《場所》

Pinewood Iskandar Malaysia Studios( PIMS) 撮影照明ワークショップ ・Film Studio3( セット撮影場所) ・PIMS所有敷地内(ロケセット撮影) ・Imagica South East Asia グレーディングルーム ・VIPルーム(オリエンテーション) 編集ワークショップ   ・Imagica South East Asia ポストプロダクションルーム ・VIPルーム(オリエンテーション)

《プログラム》

撮影照明WSスケジュール

16日 10:00-18:00 撮影照明WS準備 17日 10:00-11:30 WSガイダンス 11:30-18:30 撮影照明WS 18日・19日 09:30-18:30 撮影照明WS 20日 09:30-18:30 撮影照明WS 21日 10:00-17:30 グレーディングWS 撮影照明WS総括

編集WSスケジュール

16日 10:00-18:00 編集WS準備 17日 10:00-11:30 WSガイダンス 11:30-18:30 編集WS 18日~20日 09:30-18:30 編集WS 21日 10:00-17:30 編集WS

美術スケジュール

14日 10:00-17:00 美術領域準備 15日 09:30-18:00 美術領域準備 16日 09:30-18:00 美術領域準備 17日 10:00-11:30 WSガイダンス 11:30-18:30 撮影照明WS 18日・19日 09:30-18:30 撮影照明WS 20日 09:30-18:30 撮影照明WS 21日 10:00-17:30 グレーディングWS 撮影照明WS総括

《参加者》

受講学生数:16名 受講学生の所属:University of the Philippines Film Institute(フィリピン) Wathann Film Institute(ミャンマー) Jakarta Institute of Arts(インドネシア) LASALLE College of the Arts(シンガポール) Ho Chi Minh City University of Theatre and Cinema(ベトナム) Sunway University(マレーシア) フリーランス(マレーシア)※1

1:東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻の学生2名はアシスタントとして参加

《使用言語》

日本語・英語(逐次通訳)

《脚本協力》

木舩理紗子[東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生] 高徳宥介 [東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生] 外岡三恵 [東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生] 渡部雅人 [東京藝術大学大学院映像研究科映画専攻脚本領域 学生] 大石三知子[東京藝術大学大学院映像研究科 講師]

プログラム内容の詳細

《1日目:ガイダンス》

ワークショップ冒頭では、ISEAにて、ワークショップ講師及びアシスタントなどの紹介、参加者の自己紹介、ワークショップの趣旨と内容についての詳細、各ワークショップのスケジュール確認などのガイダンスを行った。その後、撮影照明ワークショップと編集ワークショップに分かれ、ワークショップを開始した。

◎撮影照明ワークショップ

今回の撮影照明ワークショップのテーマは「限られた光源の中での照明」である。ワークショップで使用する撮影台本の設定もテーマに沿って、廃墟とした。各シーンでの太陽や月光、雷などの自然光をスタジオでどのように再現するか、光源を考えてゼロから照明のセッティングを行うことで、どのように光をコントロールするかを体験してもらうことになった。 まず、講師陣からは、撮影照明ワークショップのテーマと目標、それぞれの目的についての説明がなされた。撮影照明ワークショップでは、A班、B班のグループ分けを行い、脚本の同シーンの撮影と照明の両方を講師らが指導した。講師らはグループに分かれ、ワークショップの方向性や学生の役割について説明した。その後、講師らが参加者とともに照明のベースセッティングをし、脚本のワンシーンの撮影照明のデモンストレーションが行われた。

◎編集ワークショップ

編集ワークショップでは参加者全員に同一の編集素材を配布し、参加者各自の解釈で編集を行わせた。参加者は講師のアドバイスを受けながらワークショップ期間内に短編作品を完成させる。編集ワークショップ初日には、講師により編集ワークショップの方向性や編集ワークフロー、使用する編集素材について説明された。その後、参加者全員にワークショップで使用するパソコンと編集素材が割り当てられ、各自での編集作業がスタートした。

《2 ~4日目:撮影と編集》

2日目から4日目までは、運営側が作成したタイムスケジュールに沿って行われた。スケジュールの具体的な内容は現場の判断に委ね、各講師がワークショップの進行具合により判断した。

スタジオセット(美術セット)撮影

撮影照明ワークショップでは、スタジオセット撮影と照明を体験してもらった。「限られた光源の中での照明」というテーマを軸に、事前に配布した脚本(廃墟設定)をもとに各班の参加者間で担当を決め、演出アシスタントと話し合いながらカメラアングルや照明の設計を進めた。 美術セット撮影では、運営側が作成した図面通りのセットが事前に設営され、エイジングが行われた。参加者は、初日に講師と一緒にセッティングしたベースライトを基準として、各自で撮影照明のアイデアを出し合いながらシーン撮影を行った。美術セットの一部の壁を取り外しできるようにしたことで、セット内でのカメラポジションの幅の広がりだけでなく、美術セットだからこそできる撮影方式を経験できた。講師らは、参加者の撮影や表現の狙いを聞きながら、よりよい撮影・照明の表現方法をアドバイスし、ワークショップを進行させた。 スタジオでは、ゼロからライティングをつくる必要がある。今回は、昼と夜の両方のライティング設計を行うことで、まったく異なった光のつくり方のプロセスを体験できた。同一のシーンでも、昼と夜のライティングではどのように照明設計が変わるのか、映像表現が変わるのかを経験できた。また、スモークマシンを使った撮影の表現技法や影を用いた照明表現、被写体の動きにどのように対応するかなどのカメラ操作技術についても、講師らのデモンストレーションをもとに進めた。 各ワークショップの最後には、参加者全員を集めて講師らとのラッシュ上映と、撮影した素材の講評を行った。参加者と講師が同じ撮影条件のもとで撮影し、比較することで、カメラ技術によってどのように表現が変わるのかなど具体的に理解することができた。また、撮影照明ワークショップ全体の進行(ホスト役)を浦田講師が行ったことで、柳島講師からより深い撮影技術についてのフィードバックや意見を学生達に伝えることができた。

ロケーション撮影(ISEAバルコニー)

ロケーション撮影のワークショップは、ISEAのバルコニーで行われた。照明機材は極力使用せず、自然光のコントロールの仕方、ロケセットでのカメラの使用方法、特機を用いた撮影方法を中心に進められた。 自然光のコントロールは、太陽の方向やレフ板の当て方について考えながら、「1シーンの照明をどのように一貫性のあるものにするか」にフォーカスした。また、ロケーション撮影で頻繁に使用される180フォローなどのカメラの操作方法も講師のデモンストレーションを交えながら行われた。

編集

編集ワークショップでは、運営側が用意した編集ソフトを用いて、参加者の自由な解釈から編集素材の編集を行わせ、期間内に短編映画の編集を完成させることをゴールとした。編集講師らは、参加者の編集の進行具合や編集意図を確認し、どのようによりよく表現するかを適時アドバイスした。 今回の編集ワークショップにおいて、参加者には自由な素材の解釈だけでなく、編集のスタイルや音楽や効果音、VFXなどの制限をしなかった。その結果、同一の編集素材から8つのまったく異なるスタイルと解釈の短編作品が完成した。また、ワークショップ期間中に編集講師らも同一の素材を使って、学生と同じ条件で編集し、ワークショップの最後に上映した。参加者は講師からワークショップ内で約3、4回のフィードバックを受けることができる一方、参加者は最終講評まで他の参加者の作品を見ることが禁止されていた。機材的なトラブルに関しては、ISEAの技術スタッフが編集技術アシスタントとして参加し、ワークショップをバックアップした。

《最終日:上映と講義》

撮影照明ワークショップ

撮影照明ワークショップの最終日は、撮影素材のラッシュ上映、講師によるグレーディング講義、参加者のグレーディング実践が行われた。 撮影素材のラッシュ上映では、ファインダー、現場モニターと映画館環境では画の印象がどのように異なるのかについて理解することができた。また、ファインダーでは気がつかないフォーカスのミスや、画面では至極小さなものも大画面では認識されてしまうことがあるなど、大画面で映像を見る重要性についても理解できた。 グレーディングの講義の際には、柳島講師の撮影素材を使用しながら実際のグレーディングの効果と目的について説明がなされた。最終的に、参加者は自分が担当した撮影のグレーディングをグレーダーとともに担当し、作業した。

編集ワークショップ

編集ワークショップの最終日は、参加者の作品8本の講評を講師と参加者で行った。参加者は各自の作品上映後に編集の意図や狙いについて発表し、それを受けて講師らが編集作品を講評した。

懇親会

各ワークショップ終了後、全参加者と講師スタッフによる懇親会が開催された。参加者は講師やスタッフに積極的に話しかけながら、交流を深めた。

アンケート結果

学んだ点

撮影照明ワークショップ参加者

・実践的なスキルを学んだ。つまり自分でどのようにシーンをつくるかを知る良い機会となった。将来の撮影現場に自信を持って対応できる。 ・異文化の映像文化で撮影すること。さまざまなアングルを使うことによって、フレーミングが変わり、結果も変わってくる。チームワークの大切さ。手元にあるもので間に合わせる重要性。プロダクション・デザイナーとうまくコミュニケーションをとることで、映像が良くなる。 ・現場でのコミュニケーションの大切さ。カメラの使い方。フレームの奥行きをつくる大切さ。いろいろな友人とのネットワークを築くこと。監督の狙いを理解するのが大切であること。 ・Arriカメラの正しい使い方とカメラのための照明方法。撮影現場での効率性と場所の重要さ。いろんな国の人と作業することによって、さまざまな視点や道具の呼び方も覚えた。DPが映像と照明に対していかに重要な役割を果たしているか。 ・スタジオシステムの仕組みと照明の重要度。メンター達が非常に優しく、技術以上にショットの目的・意義・表現についてたくさん学んだ。 ・照明のセットアップと効果的なイメージのつくり方、話に合わせたカメラのアングルや動きについて学んだ。 ・5日間のワークショップで多くのことを学ぶことができたし、憧れのカメラマンにも会うことができた。撮影の技術、理論、撮影に臨む態度も学ぶことができた。本当にすべてが素晴らしかった。最高の日本人講師とImagicaに感謝! ・スタジオで昼・夜をつくること。Arri カメラの使い方。組織的に他人とコラボレーションする方法。自分のスタイルをつくり出す方法。異文化と新しい友人達に出会えた。このような異なる国々の人々と会う機会をつくってくれて、本当に感謝しています。 ・セットの照明方法。助手に自分の考えをうまく伝える方法。

編集ワークショップ参加者

・ルールがいくらあっても想像力を絶対に失わないこと。与えられた素材を選び、変貌させて新しい素材をつくりあげる方法を学んだ(特に素材が限られている場合)。素材の使い方によってできあがる作品が異なってくる。編集者にはいつも個人のスタイルがある。自分のスタイルを見つけ出す必要がある。 ・緩・急(遅い・速い編集)の重要性。さまざまな創造的な選択を考えること。他の物語のためにつくった素材で、新しい話を紡ぐことができる。 ・緩急の大事さ。自分が編集した映像を違う立場から見て見ること。Adobe Premiumをじっくり学ぶこと。アクションの編集が難しい。編集には想像力が大事だ。皆がストーリーに対して違う想像力を持っている。視聴者を休ませることが大事だ。自分の限界に挑戦すること。 ・ショットとアクションを選択することによって、編集過程において可能性がいかに広がるのかわかった。編集者は単純にアクションを組み合わせているではなく、創造的ではないといけない。このワークショップが終わってしまうのがとても悲しい。 ・デジタル編集を上手に利用する方法を学んだ。また、自分の考えを編集に反映させることも学んだ。映像・音・効果を通して、自分の物語をつくらなければならない。編集がいかに難しいということもわかった。また、異文化の友人らとのチームワークを通して自分のアイデアをどのように実現するか、その技術を学ぶことができた。 ・自分の想像力を高めること。編集によって雰囲気やムードやリズムやストーリーまでが変わってしまう。編集者が監督やプロデューサーと一緒に仕事をする必要があるが、自分の想像力を提供することも大事である。編集者(国)によってスタイルが変わる。 ・編集のやり方。想像性と編集の可能性。 ・編集は国と人間と人間の心を表すツール! 編集は人生のように多くの可能性がある!

美術アシスタント

・美術部の女性と一緒に作業をする方法。自分の考えを積極的に伝えること。 ・自分の選択がどうやって映像に影響与えるかということ。制作チームとのコミュニケーションの重要性。照明比率とカラーグレーディング。スタジオでセットをつくり、撮影することの意義。現場で常に準備していること。食べ物が美味しい。 ・美術部の助手として関わっていたので、いろんな環境における撮影セットのつくり方についてたくさん学んだ。例えば、木でできたスタジオの床はPinewoodStudioで学んだ。本当の苔と材木を使って苔の質感をつくるのが面白く、放棄された建物をつくる機会があれば将来的にやってみたい。

このワークショップで  いまひとつだった点

撮影照明ワークショップ参加者

・照明についてもう少しデモンストレーションをしてほしかった。 ・機材の使い方を理解していない学生がいたので、もう少し時間をかけた方がよかった。 ・最初の作業ペースが早く、文化の違いに大変ショックを受けた。だが、私もそのペースに追いつこうと意欲が出たし、より多く学ぶ意欲が生まれたので、結果的には良かった。感謝しています。 ・照明機材が大きすぎ、扱いづらかった。

編集ワークショップ参加者

・機材トラブルがあった。 ・アジアのワークショップなので、アジアの編集素材を扱いたかった。

まとめ

今回のプログラムでは、ASEAN諸国6カ国(マレーシア、シンガポール、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、インドネシア)から参加者を募った。 受講者の多くは異なった文化をバックグラウンドに持つ参加者と、母国語でない言語でコミュニケーションを行わなくてはならなかった。参加者は、文化と言語を超えるコミュニケーションの難しさを実感しただけでなく、映画制作での意思疎通の重要性を経験できた。また、言語や文化を超えて“映画”という共通言語が理解し合えるということも十分に実感できたはずである。 昨年は、「アジャイル式デジタルシネマ制作ワークフロー」に基づく映画制作ワークショップを行ったが、今年はより高度な映画制作技術の習得を目的とし、撮影と編集領域に特化したワークショップを実践した。結果的に撮影照明ワークショップでは、映画制作に追われることなく時間をかけて撮影実習を行うことができた。また、撮影素材を当日に講評する時間を設けることができ、学生達に撮影の実感があるうちにフィードバックができたのは大変有意義であった。また、講師による学生と同一条件で行われた撮影のデモンストレーションで、プロフェッショナルと自分達との撮影の考え方や技術の相違を体験できたことは大変貴重であった。 参加者が撮影照明に集中できるように、運営側がワークショップテーマに沿った脚本と演出者を用意できたことも重要であった。美術セットも脚本の意図を反映したものを準備設計でき、演出者には作品づくりが目的ではなく、ワークショップを前提としていることと、撮影照明ワークショップの意図を事前に伝えることで、撮影現場でもワークショップの狙いを壊すことなく臨機応変に演出をつけてもらえた。これらの事前準備と現場での柔軟な対応により、参加者は講師の意図に沿った体験をすることができたと言えよう。 また、司会進行(ホスト役)を浦田講師が担当したことにより、撮影照明ワークショップでの理解と学習の幅が一層充実したものになったことは間違いない。浦田講師による撮影のプロフェッショナルと映画教育者としての2つの視点からワークショップを俯瞰できたことで、参加者レベルでは思いつかないような重要な疑問や質問を柳島講師から聞き出すことができたのは大変重要であった。 参加者のアンケートからも、今回の撮影照明ワークショップで、撮影照明の実践的技術や理論、撮影監督の姿勢、現場でのコミュニケーション、意思の疎通の重要性など多くのことを学び、経験したとの結果が出ている。この結果からも、参加者が普段の撮影現場や教育現場では学ぶことができない多くのものを体験できたと考える。 編集ワークショップでは、事前に講師と話し合い、台詞のない短編映画の素材を用意した。今回のワークショップはASEAN諸国6カ国から参加者を募っているので、台詞などの負担を軽減し、できるだけ映像編集に集中できる状態を目指した。編集素材は、アクション短編映画で完成尺6~10分程度のものである。編集作業に特化した形式であり、編集作業は主に個人作業であった。基本的に参加者は用意された素材を各自で読み取り、編集の意図を考えながら編集作業を行った。 宮島講師は、参加者の編集がある程度整った段階で一人ひとりの参加者の作品を見て、参加者に編集意図を説明させ、その意図を汲み取ることでアドバイスを繰り返した。未使用ショットの使用を促すことや、シーンの削除や入れ替えなど、具体的な素材に基づいてアドバイスすることを通じて、参加者は試行錯誤しながら各自で判断して新しい表現方法を見つけながら編集を行うことができた。アドバイスによって劇的に編集が良くなる者、アドバイスから違う方向性を見つけて新しい編集を行う者など、参加者の解釈と多様な創造性は興味深かった。 編集素材は同一であるが、編集者の映像解釈によりまったく異なった作品になることに、講師だけでなく参加者全員が驚いていた。今回の編集ワークショップでは、音楽や効果音、VFXなどの使用に制限を設けなかったことで、映像だけでなくサウンドやその他の効果についても参加者の個性が多く反映された。 これらの参加者の編集意図や特性を読み取りながら的確にアドバイスするのは、経験豊富なプロフェッショナルの編集者だからこそできる技術であることは間違いない。アンケート結果からも今回のワークショップで、多くの参加者が映画編集の創造性とその可能性について理解を深めたことがわかる。宮島講師も今回の編集ワークショップの方向性と参加者個人の編集技術や知識の向上には大変満足していた。何より講師を含め、参加者全員が映像編集言語に国境はないことを実感していた。 撮影照明ワークショップ、編集ワークショップとも各領域の技術に特化したことにより、参加者は映画制作ワークショップとは異なった専門的な知識と技術を体験できた。これは今回のワークショップの大きな成果である。また、参加国をASEAN諸国6カ国にしたことによって、より多くの文化的国際交流ができた以上に、参加者は映画言語が世界共通言語であることを実感できたのではないだろうか。ただ、参加学校が多くなったことで、参加者の技術的レベルや知識に大きな違いがあり、それが原因で作業に余分な時間がかかったり、作業についていけない参加者がいたりしたことも事実である。参加者のレベルによっては、専門的知識を有していない者もおり、これらの学生には領域別でなく制作実習ワークショップの広く浅い知識の方が良いのかもしれない。各学生のレベル差については、今後は事前に調査を行い、参加者のレベルに沿った(実習か各領域に特化した)ワークショップを行うのが望ましい。 過去3年にわたりASEAN諸国でワークショップを行ってきたが、参加者の反応から今回のワークショップが個人技術習得の観点から考え、最も充実したものであったのではないかと客観的に考える。一方で、昨年の制作ワークショップでは各個人の技術でなく、“コミュニケーション”など集団での映画制作技術をより深く学ぶことができたことも忘れてはならない。本事業から、これら2つの教育的成果が明らかになったことは大変有意義である。今後はこれらの結果をワークショップ企画に反映していきたい。 また、今回ASEAN諸国6カ国の教育機関から参加者を募集できたことも、アジア映画教育において大きな意味がある。本プログラムは、国際映画教育協議会(CILECT)のネットワークを使用して行われたが、映画教育機関によるこの規模での映画ワークショップは未だかつてほとんどなく、国際映画教育協議会(CILECT)のアジア太平洋組織(CAPA)からも、本プログラムに対する今後の期待が大きい。 過去3年間にわたる本事業が、日本が培ってきた映画教育メソッドの窓口となり、ASEAN諸国への映画教育の普及に貢献した功績は少なくない。今後は、さらに参加国・参加機関を増やし、日本の映画教育のアジアへの普及に貢献したい。 今回、講師と多くの参加者から「本プログラムに参加できて本当に良かった」との声が多く届いた。本ワークショップがここまで充実したものになったのは、マレーシア側のスタッフの熱意と献身さ、多忙にもかかわらず貴重な時間をかけて参加していただいた柳島氏、浦田氏、磯見氏、宮島氏ら講師陣、そして講師のアシスタントの方々のおかげに他ならない。ここに感謝申し上げます。