平成29年度ASEAN文化交流・協力事業(アニメーション・映画分野) | » Home

事業目的

 本事業は、成長著しいASEAN諸国に、日本が強みを持つ映画とアニメーション分野の専門人材を派遣し、現地の若者を対象とした実践的ワークショップを行うことで、人材育成に協力するとともに、日本の文化発信力の強化と国際文化交流を推進することを目的とする。

 昨今、社会全体が急速にテクノロジーへの依存を強めている中、人々の心の豊かさを育む土壌となるのは文化であり、文化を耕すことができるのは人である。インターネットを通じて手軽に文化的な「知識」の交換は可能になったが、やはり人と人が顔を合わせて同じ場所の空気を感じ、より深いレベルで濃密な時間を共に過ごす「体験」とは代替不可能である。我々は今回の事業を実施するにあたり、現地の若者達の人生における一つの礎石となるような、深いレベルの文化体験を提供することを目指した。

 具体的に我々が企画したのは、「共につくる体験を通じた文化理解」のプログラムである。日本のポップカルチャーはASEAN諸国でも広く受容されているが、それらがどのような人々によってどのようにつくり出されているかについて、「知識」ではなく「体験」として理解している人は少ない。また「共につくる体験」は、お互いを尊重し、やりたいことに耳を傾け、それをどのように実現していけばよいかを教え・教わる関係を築く。一人では生み出せなかったものが、他者との協同作業によって生まれるプロセスを体験することは、参加者にさまざまな気づきを与えてくれるはずである。

 こうした考えを背景として、我々は、映画とアニメーションの両分野において、実際の制作体験に焦点化した文化交流のプログラムを実施した。具体的には、それぞれの分野において日本を代表する高い技術と経験を持った一流の制作者達を、マレーシアとタイの2カ国に派遣し、実践的な内容のワークショップを行った。それらを通じて各国の当該分野における人材育成に貢献するとともに、現地の若者達に、日本の映像文化を支える制作者達の高い技術レベルとその背後にある思想の深さを理解してもらうことを目指した。

事業構成

本事業の全体構成を以下に示す。

  映画分野 アニメーション分野
マレーシア デジタルシネマ
ワークショップ
 
タイ   アニメーション
ブートキャンプ
2016 ASEAN

 本年度は、昨年度に続きマレーシアとタイの2カ国でワークショップを行った。

 昨今、政府主導による映像産業振興が活発なマレーシアでは、シンガポールに隣接したジョホール州にある Pinewood Iskandar Malaysia Studios(PIMS)を会場とし、『デジタルシネマ撮影照明・編集ワークショップ in マレーシア』を行った。講師を務めたのは、撮影照明、美 術、編集の各領域の第一線で活躍する4人のプロフェッショナルである。昨年度の映画分野のワークショップでは、マレーシアとシンガポールから学生が参加したが、今回はさらに参 加者の裾野を広げるべく、国際映画教育連盟(CILECT)のネットワークを使い、ASEAN諸国の映画・映像教育機関に参加募集を行った。その結果、マレーシアとシンガポールの他に、 フィリピン、ミャンマー、インドネシア、ベトナムから応募があり、さらに日本からアシスタントとして参加した東京藝術大学の学生も含めると、計7カ国18人が参加するという国際 色豊かなワークショップとなった。詳細は第2章で報告する。

 一方タイでは、ディレクターの竹内孝次と布山タルトが平成24年から文化庁事業の中で 実践してきたワークショップを海外向けに発展させた『アニメーションブートキャンプ 2017 ASEAN』を実施した。日本のアニメーション業界で活躍するトップクラスのアニメーター達 を講師として、アニメーションで表現することの基本を教えるプログラムである。会場はバンコクにある Silpakorn University の Wang apra Campus。タイ国内の4つの大学から計25人の学生が参加し、東京藝術大学から派遣された6人の学生とともにアニメーション制作に取り組んだ。本年度は3年目の開催となり、前回、前々回の受講生達 が今度はサポートスタッフとして活躍するなど、継続的に開催してきたことの成果が実を結びつつある。また今回の新たな試みとして、タイのアニメーション 業界関係者や大学教員らとの意見交換会を実施し、アニメーション産業や教育の未来についてディスカッションを行った。アニメーション分野の詳細は第3章で報告する。