これまで独自の制作プロセスや人材ネットワークによりユニークな表現を生み出してきた、日本のアニメーション。加速度的に進むグローバル化とデジタル化の流れの中で、我々は次世代に向けて何をすべきでしょうか。大学として、これにどう向き合えばよいのでしょうか。
企画、制作から配給まで、これまで日本のアニメーションは国内で独自に発展させたユニークな方法をとることにより成長してきました。企画の時点からグローバルマーケットを意識することは稀で、日本市場のみを意識して完成させた作品が、結果的に(いや幸運にも!)世界に受け入れられてきたと言っても過言ではありません。ところが、近年の日本経済の低迷とコンテンツマーケットのグローバル化により、日本国内だけを対象とするビジネスモデルに変化が生じてきています。また人材についても、少子化の影響や若者の就労意識の変化等により、日本の中だけで後継者を探し、時間をかけて育成することが難しい状況となりつつあります。一方、制作プロセスや配給のデジタル化は、アナログ的作業の多かった制作行程に大きな影響を与えており、デジタル化にどう向き合うかも日本のアニメーション界の大きな課題となっています。
東京藝術大学は、2008年に日本の国立大学で初めてアニメーションの専門教育・研究を行う専攻を大学院に開設し、アニメーション界を担うリーダーの育成に取り組んできました。以来多数のクリエイターを輩出し、数々の国際的なアニメーション映画祭で賞を受賞するなど、世界的にも高い評価を得てきています。そして本年度、文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」※対象校に選定され、アニメーション分野における世界トップレベルの大学等との交流・連携をこれまで以上に強化し、国際的に活躍しうるグローバル人材育成に取り組みはじめています。
こうした状況をふまえて、本シンポジウムでは文部科学省が提唱する「スーパーグローバル」という概念をアニメーションの文脈から捉えなおし、それを実践に移していくための具体的なアイデアや課題について議論していきます。
第一部では、韓国、中国、フランス、アメリカ、カナダのアニメーション関連の教育機関からゲストをお招きし、産学官によるグローバル人材育成の様々な試みについて事例報告とディスカッションを行います。
第二部では、日本のアニメーションをグローバルに展開しようとする際の制作・プロデュースにおける課題を洗い出し、それに対して大学として何ができるかを考えます。
今回のシンポジウムのタイトルに掲げられた日本の国民的キャラクター「ドラえもん」は、近年、3DCG映画化や米国でのテレビシリーズ放送など、時代の変化に柔軟に対応したグローバルな展開が注目を集めています。ドラえもんのみならず、ドメスティックかつユニークに発展してきた日本のアニメーションが、グローバル化を超えた「スーパーグローバル」な進化を遂げるために、本当に必要なことは何なのでしょうか。
我々はこのシンポジウムを、目先の利潤追求に囚われることなく、日本のアニメーションの次の100年、ドラえもんの生きる22世紀を見すえ、国境の枠を超えて産学官が協力しあい日本ひいては世界のアニメーション文化を活性化していくきっかけとなる場にしたいと考えています。
スーパーグローバル大学創成支援:
日本の高等教育の国際競争力向上を目的として、海外の卓越した大学との連携や大学改革により国際化を推進する大学に対し、重点支援を行う文部科学省による事業です。東京藝術大学は「グローバル化牽引型」に採択されています。