第1回講座アーカイブ

第1回講座詳細

 

国立のアニメーションスタジオとして、数々の名作を制作してきたNFB(カナダ国立映画制作庁)。そのNFBでは今や国際共同制作の作品がほとんどとなっています。本学教授山村浩二最新作品「マイブリッジの糸」もまさにNFBとの国際共同制作によって作られました。NFBの国際共同制作に対する考え方やプロセス、今後のビジョンはどのようなものであり、どう変わろうとしているのでしょうか?フクシマ氏が手がけたいくつかの作品を事例に、短編アニメーションにおける国際共同制作の今後を考えていきたいと思います。

プロフィール

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マイケル・フクシマ(Michael Fukushima)

1984年から映画を作り続け、ホット・ドキュメントを受賞した『ミノル:逃亡のメモリー』で、1990年にNFB(カナダ国立映画制作庁)に入る。1997年に同アニメーション部門のプロデューサーとなり、NFBの主力若手映画制作者育成プログラム『ホットハウス』の共同制作、ジニー賞受賞『cNote』(監督:クリス・ヒントン)、リリアン・チャン賞受賞『Jaime Lo, small and shy』DOKライプツィヒ金鳩賞とNHK日本賞受賞のアニメーション・ドキュメンタリー映画『自分の靴ひもをしめよう』(監督:シラ・アヴニ)などを手掛ける。今年、日本との国際共同制作で、山村浩二監督『マイブリッジの糸』を完成させた。

 

 

 

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講師:マイケル・フクシマ(カナダ国立映画制作庁(NFB)プロデューサー)

聞き手:岡本美津子(東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻教授)

 

 

岡本 : 本日はNFBカナダ国立映画スタジオ(National Film Board of Canada) のプロデューサーであるマイケル・フクシマさんをお呼びして、カナダのアニメーションプロデュースの現状についてお話を伺いたいと思います。  マイケルさんは、フィルムディレクターの経験を経てから1997年NFBのプロデューサーに就任。以来、アニメーションを中心にたくさんのプログラムに携わり、山村宏司監督の「マイブリッジの糸」 の共同プロデューサーでもあります。 まずは、マイケルさんが映画監督からプロデューサーに転身されたきっかけなど、ご自身のパーソナルヒストリーからお話いただきます。

アニメーションプロデューサーの仕事

フクシマ : 私はこれまでのキャリアのほとんどを映画の制作とプロデュースに割いてきました。カナダでアニメーションを勉強して映画業界に入り、84年から87年まで映画のディレクターをつとめました。90年に父をテーマにした自主制作映画が認められてNFBに招かれ、97年から今日までNFBのプロデューサーを15年務めてきました。   

 私がプロデューサーに転向した理由はニつあります。ひとつは、若い制作者が作品をつくるチャンスをNFBにもつくりたかったことがあります。もうひとつは、こちらの方が大きな理由ですが、ディレクター時代は一作品に2、3年も集中しなければならず、それが自分のスタイルとは違うと思ったのです。プロデューサーとして、もっとたくさんの作品と関わりたいと思いました。

 

岡本 : NFBという組織の中で、プロデューサーはどのような役割と責任を担っているのでしょうか。プロデューサーは主に水面下で活動していてなかなかまとまった話を聞く機会がないので、ぜひNFBの事例を伺いたいと思います。

 

フクシマ : NFBの定番ジョークに「プロデューサーはディレクターがやらないことは全部やる」があります。映画制作者に対する資金提供、予算編成、完成後のディストリビューション、作業スペースの確保などさまざまな仕事があります。NFBは巨大な組織で運営面の管理が厚いので、私の役割は制作者と管理者のいわば橋渡しです。映画制作者たちの語る言葉は、往々にして抽象的すぎたり、メタフォリカルだったり、具体的なポイントになかなか行きつかなかったりします。そうした制作者の言葉をきちんと理解したうえで、今度は管理側の役員に、彼らにもわかる言葉で伝えるのです。制作者が安心して制作にだけ集中できる環境をつくることも、私の仕事です。
 また制作者がNFBに関わる前段階の作業もあります。NFBにふさわしいすばらしい才能を持った人材を、世界とカナダ国内から発掘することです。難しい点は、彼らの潜在的な能力をNFBでさらに伸ばせるかを事前に見極めることです。同じような作品を繰り返しつくり続けて芸術的に伸びないケースもよくあります。若い映画制作者の場合は、経験は浅くても、私がいっしょに関わることでより高いレベルへ引き上げることができるか、その可能性を見るようにしています。

魔法の石を目にあてると才能のある人は光る—というのは冗談ですが、作品や作家と会ったときに、私とつながるものがあるかどうかがきっかけとなっています。

 

岡本 : NFBでは実際にどのように作品を受け付け、どのような議論を経て作品がつくられていくのか詳しくお聞かせください。

 

フクシマ : そのプロセスをお話するために実際の作品を見てみましょう。一作目はエリザベス(リジー)・ホッブス(Elizabeth Hobbs)という作家の「The Emperor」という作品です。この作品を見て、彼女とNFBで一緒につくりたいと思いました。

 

岡本 : どの点がよいと思われたのですか。

 

フクシマ : 初めて見たのは10年ほど前でしたが、カメラの下に水彩画の技法で同じ紙の上に描いては撮影するという手法をとっていました。中心のイメージはクリアなまま背景が消えて幽霊のようにぼんやりと浮かびあがっていく独特の技法でした。ストーリーは、1969年イギリスでナポレオンの耳がオークションにかけられたという実話をヒントに彼女自身が創作したものです。見たこともない美しい技法とストーリーテラーとしての才覚に興奮し、彼女に会ってNFBで作品をつくらないかと打診しました。そうしてNFBとの共同制作「The True Story of Sawney Beane」 が完成しました。技術的にさらに進化して、水彩画と木炭を用いることで登場人物の表情も豊かになりました。スコットランドのカニバリズムの伝説を取り上げ、そのストーリーの不思議さと彼女の技法が見事に相まっていました。この作品によって、彼女は次のレベルへ成長していきました。
 次の作品は、2006年頃の広島国際アニメーションフェスティバルで見た、セドリック・ルイスとクロード・バラス(Cedric Louis and Claude Barras)の「Banquise」 (YouTube)です。太った女の子がビーチでコートを脱げずに死んでしまうという話で、見た目はソフトで子供向けの作品のようで実はブラックで大人のための作品だと思いました。広島で声をかけ、2年後にNFBで完成したのが「Land of the Heads」(NFB)です。魔法使いに命令された夫が子供の頭を狩るという、やはりダークでコミカルな話です。プロポーザルはストーリーが半ページ、パペットの紹介が1ページと簡単なものでしたが、読んだとたんに、これが映画になったらとてもユニークなものになる!と私とNFBも合意しました。全編をパペットで制作するのも彼らには初の試みで、作家自身がすでに高いレベルを目指していたこと、カナダにはいないタイプの作家だったことも理由になりました。以上、なぜこれらの作品をNFBが取り上げたのかご理解いただけたと思います。

 

 

 

NFBとの国際共同制作について

岡本 : 次に国際共同制作について伺います。最初にみたリジーさんの例はスコットランドとの共同制作、後者はスイスとの共同制作ですが、NFBにおいて国際共同制作はどのようなルールで行っているのでしょうか。

 

マイケル : いくつかのルールがあります。まずプロデューサーが自国で1/2の制作費を確保できるか。次にこれまでに共同制作の実績が少ないこと。「Sawney Beane」はイギリスとの2作目の共同制作、スイスはフランス語圏との共同制作は初めてでした。3つ目のルールは、その共同制作が双方にとって世界の注目を集める機会となり、NFBが広く知られ信頼が高まることです。アニメーションプロダクションとしてのNFBの知名度は、実はカナダ国内よりも海外で高いのです。国際共同制作に求められるのは、世界的に非常に高い評価です。そのために巨匠クラスの作家と仕事をすることと、これまで共同制作したことのない国との間に新しいチャンスをつくる、この両方から評価を高めていきます。最後に、限られた時間の中でより少ない予算で回さなければいけないというアドミニストレーション側のルールもあります。

 

岡本 : 国際共同制作とは言うが易し、実際は非常に困難を伴うものだと言われていますが、国際共同制作を行う上で苦労する点はどんなところですか?

 

 

フクシマ : あらゆる仕事の中でもっとも大切で苦心することは、制作者はもちろんプロデューサーを含めたすべての人とよい関係を築くことです。私の立場が、みんなにとって気軽に声をかけられるスムーズでポジティブな存在でありたいと思っています。なぜなら映画制作は大変なことばかりだからです。それぞれの国のあらゆる契約、制作、音楽、そのひとつひとつのプロセスに大変手間がかかって前へ進めないこともあります。「マイブリッジの糸」も、企画から資金調達、制作、完成までに足かけ8年かかっています。はじめ小さかった私の息子も完成したときにはすっかり大きくなっていました。

 

岡本 : 国際共同制作に対する今後の見通しについて最後に聞かせていただければと思います。

 

フクシマ 残念ながらNFBでは今後5年間の国際共同制作は縮小の傾向にあります。加えて最近は主要なアニメーションメーカーとの共同制作に限っており、若い人との共同制作が難しい状況です。しかし一方で主要なフィルムメーカーとして、次世代を育て制作できる環境をつくっていく責任があります。

ですからスタジオのレベルでは可能性は閉ざされていないのです。もし才能ある若い作家がいて自分を次のレベルへと高める努力を示していただければ、そこにチャンスはあります。

作品への評価

質問1: オーディエンスはどのような層を想定していますか? また、作品を売る方法としてどのようなものがありますか?

 

フクシマ : どういう人に向けてつくるのか、それをどういった方法で見せるのか、それはすべて制作者の裁量に任されます。 がっかりさせて申し訳ないのですが、アニメーションをつくっても資金はほとんど回収できません。

なぜなら、スタッフはみなNFBの組合員ですし、ポストプロダクションにも、ベストの状態で見せるコンディションにも非常にお金がかかっています。ですから、DVDを売ってもインターネット配信しても、たとえアカデミー賞をとったとしても、使ったお金を回収することは不可能です。その点でもこれはアートなのです。芸術活動とお金は分けて考えています。ただし一つだけ例外があって、運が良ければテレビ会社が惚れ込んで上映権を買って放映してくれるかもしれません。もしテレビ局が作品を買いたいと言ってきたら、まず腕のいい弁護士を雇うことです。でないと太刀打ちできませんので。

 

 

 

 

質問2 : NFBではどのように成功を評価するのでしょうか。

 

フクシマ : その答えも先ほどの質問にかかわってきます、つまり映画制作者は誰のためにその作品をつくったかということです。もし制作者が全学校で作品を見せたいと願い、本当に実現できたら、たとえ他に誰も見ていなくてもNFBはそれを成功とみなします。映画制作は文化的な作業と位置づけているので、収益自体は目的にはなりません。制作を通じて作家やプロデューサーの名が知られ高い評価を得られることがあれば、それも成果とみなします。
 大切なのは、最初に正直にゴールを設定することです。映画はいくつもゴールを達成できません。けれどもそのゴールがたとえ小さくても、ひとつでもきちんと世界へ向けて達成できたなら、その映画は成功と呼べるでしょう。